近年、ゲーム業界ではユーザーのアクセシビリティを大幅に向上させるUI設計が進んでいます。特に2020年以降、多くの大作ゲームがアクセシビリティ機能を充実させ、高く評価されました。ゲームUIの取り組みから得られた知見は、そのままWebサイトやWebアプリのUI改善にも応用可能です。
ゲーム開発者は”エンタメ性”と”没入感”を損なわずに幅広い障がい者ニーズに対応するという、非常に高度なバランスが求められる課題に取り組んでいます。彼らが生み出した革新的な解決策は、WebUIデザインにも新たな視点をもたらし、より多くのユーザーが利用できるインクルーシブな体験の実現につながるでしょう。本記事では、ゲームにおけるアクセシビリティの成功事例や革新的な取り組みを紹介し、Webへの応用ポイントと併せて考察します。
ゲームUIとWebUI:アクセシビリティ設計の違いと共通点

ゲーム業界とWeb業界では、UIへのアプローチに大きな違いがありますが、アクセシビリティの観点では共通する課題も多く存在します。両者の違いと共通点を理解することで、より効果的な応用が可能になります。
ゲームUI
ゲームUIのアクセシビリティ設計では、「感情・没入感・操作性」と「障がい対応」のバランスが課題となります。プレイヤーがゲーム世界に入り込む体験を損なわずに、視覚・聴覚・運動機能などの多様な障がいに対応する必要があります。
WebUI
WebUIのアクセシビリティ設計では、「情報取得の確実性」と「操作の完遂」が中心課題です。ユーザーが必要な情報に確実にアクセスし、フォーム入力や購入などの操作を完了できることが優先されます。構造化されたマークアップ、スクリーンリーダー対応、キーボードナビゲーションなど、支援技術との連携が重視されます。
共通するアクセシビリティ原則
両者に共通するのは「ユーザーごとの違いを受け入れる柔軟なインターフェース設計」の必要性です。効果的なアクセシビリティ設計には次の原則が重要となります。
- 代替的なフィードバック手段:視覚・聴覚・触覚など複数の感覚経路で情報を提供
- カスタマイズ可能なインターフェース:文字サイズ、色、コントラスト、操作方法など個別調整できる設計
- 包括的なアプローチ:特定の障がいだけでなく、多様なユーザーニーズを総合的に考慮
一見異なる目的を持つゲームとWebですが、アクセシビリティの本質は「多様なユーザーが自分に合った方法でコンテンツにアクセスし利用できること」という点で一致しています。ゲーム業界で培われた高度なアクセシビリティ対応の手法は、Web開発にも有益な示唆を与えてくれるでしょう。
では、これらの原則を実践しているゲームの成功事例を見ていきましょう。
アクセシブルなゲームUIの成功事例
ゲーム業界では特に2020年以降、アクセシビリティへの取り組みが飛躍的に進化しました。ゲーム評論家のLaura Kate Dale氏は、「The Last of Us Part II」(2020)の登場がゲームアクセシビリティを大きく前進させ、年末の数々の賞で称賛されたことで業界全体に「大きな変化」をもたらしたと述べています(注釈[1])。その後もビッグタイトルがこれに続き、競うようにアクセシビリティ対応を拡充しました。
ここでは特筆すべき成功事例を紹介し、それらがWebデザインに与える示唆を考察します。
『The Last of Us Part II』

引用元:IGN Japan(jp.ign.com/the-last-of-us-2-ps4)
概要
『The Last of Us Part II』
Naughty Dog開発/Sony Interactive Entertainment発売/2020年
60種類以上のアクセシビリティオプションを実装し、視覚・聴覚・運動障がいに対応(注釈[2])
主なアクセシビリティ機能
- 全盲のプレイヤー向けテキスト読み上げ機能と高度な音響システム:ゲーム内の全テキストを読み上げるだけでなく、敵の位置や重要なアイテムを音で把握できるよう設計
- カスタマイズ可能な高コントラストモード:背景をモノクロームにし、キャラクターや重要オブジェクトを鮮やかな色で強調表示、ワンタッチでオン/オフ切替可能
- アクセシビリティのプリセットと微調整:視覚・聴覚・運動機能に合わせた基本設定を用意しつつ、60以上の個別オプションで細かく調整可能
- 初回起動時からのアクセシビリティ設定:ゲーム開始前に基本的なアクセシビリティ機能が有効になり、最初から全ユーザーが物語に参加できる設計
成功とされる理由
「これまでで最もアクセシブルなゲーム」と言われ、実際に視覚障がい者がゲームを完全攻略できるほど包括的な対応を実現しました。発売後、ユーザーや専門家から「アクセシビリティの新たなゴールドスタンダード」と称賛され、The Game Awards 2020では新設の「Innovation in Accessibility Award(革新的アクセシビリティ賞)」を受賞しています。
Web UIへの応用ポイント
Webサイトでも初回訪問時にアクセシビリティ設定を案内するポップアップや専用ページを設けることで、ユーザーが最初からストレスなくコンテンツにアクセスできます。また、「必要な機能だけをオンにできる」という柔軟性は、Webでもユーザー設定として実装可能です。例えば、高コントラストモード切替ボタンをヘッダーに配置し、セッション中いつでも切り替えられるようにすると、状況に応じた利用がしやすくなります。
『Forza Horizon 5』

引用元:IGN Japan(jp.ign.com/forza-horizon-5)
概要
『Forza Horizon 5』
Playground Games開発/Xbox Game Studios発売/2021年
ASL/BSL手話通訳機能を含む包括的なアクセシビリティ設計を導入(注釈[3])
主なアクセシビリティ機能
- リアルタイム手話通訳機能:業界初の試みとしてカットシーン中に手話通訳者映像を表示、ろう者にとって母語でストーリーを理解できる革新的な仕組み
- ゲームスピード調整:オフラインモードでゲーム全体のスピードを10%〜50%まで細かく調整可能で、反射神経や認知処理に障がいのあるプレイヤーが快適にプレイできるよう配慮
- 色覚タイプ別カラーフィルター:第一色覚〜第三色覚異常など複数の色覚タイプごとに最適化された画面表示を選択でき、UIの視認性を確保
- 様々な障がい当事者との協働開発:開発初期からアクセシビリティ専門組織やXboxアクセシビリティチーム、障がい当事者と連携し、実際のニーズを反映
成功とされる理由
大作レースゲームで業界初の手話対応に踏み切り、ろう者のコミュニティから「ゲーム内でネイティブ言語でストーリーを理解できるのは画期的」と歓迎されました。The Game Awards 2021で「Innovation in Accessibility Award」を受賞し、開発初期からアクセシビリティ専門組織(Xboxのアクセシビリティガイドラインチーム等)や当事者の意見を取り入れた成果が現れています。
Web UIへの応用ポイント
「選択肢の提供」と「誰もが恩恵を受ける設計」という原則はWeb開発に直接応用できます。例えば、動画コンテンツに手話通訳をオプションで表示する機能は、オンライン講座や企業説明動画で実装可能です。また、コンテンツ再生速度の調整機能も、認知障がいのあるユーザーだけでなく、学習目的や内容確認のために速度を変更したい全ユーザーにとって便利な機能となります。
『God of War: Ragnarök』

引用元:IGN Japan(jp.ign.com/god-of-war-ragnarok)
概要
『God of War: Ragnarök』
Santa Monica Studio開発/Sony Interactive Entertainment発売/2022年
前作から大幅に拡充した高度なアクセシビリティ機能群を搭載(注釈[4])
主なアクセシビリティ機能
- マルチモーダル情報提供システム:同じ情報を視覚・聴覚・触覚など複数の経路で伝達し、一つの感覚に障がいがあっても他の感覚でカバー(例:敵の攻撃を画面表示・音・振動で同時に通知)
- プロのナレーターによる視覚解説:カットシーンや重要なゲームプレイ場面を専門ナレーターが音声で詳細に解説し、視覚障がい者でも物語やゲーム状況を理解できる機能
- 要素別の独立した難易度設定:戦闘・探索・パズルなど要素ごとに難易度を個別調整でき、例えば「戦闘は簡単に、パズルは難しく」など各プレイヤーに最適な体験を提供
- 字幕・UI表示の徹底的なカスタマイズ:文字サイズ・色・背景・位置など細部まで調整可能で、話者別の色分けや効果音の文字表現、方向指示など情報の質も充実
成功とされる理由
本作も発売と同時に「過去最多レベルのアクセシビリティ機能を搭載したゲーム」として賞賛されました。The Game Awards 2022では「Innovation in Accessibility Award」を受賞し、視覚障がい者支援団体から「視覚効果の豪華さとアクセシビリティを両立させた」と評価されています。
Web UIへの応用ポイント
UIの読みやすさ・見やすさの徹底的な追求と、一つの情報を複数の感覚経路で伝える「冗長性」はWebでも重要です。例えば、重要な通知は視覚的表示と音声の両方で伝え、フォーム入力エラーは色による表示だけでなくアイコンとテキストメッセージを組み合わせるなど、複数の方法で情報を伝達すると良いでしょう。また、ユーザーの好みに応じてUIを詳細にカスタマイズできる設計は、ダッシュボード形式のWebアプリなどで特に有効で、必要な情報だけを適切なサイズと配置で表示できるようになります。
これらの成功事例から見えてくるのは、アクセシビリティ機能を「付け足し」ではなく「核心的な設計要素」として捉える姿勢です。しかし、こうした機能を実装するには、動作環境の特性や制約を理解することが不可欠となります。では次に、プラットフォームの違いがアクセシビリティ設計にどう影響するかを見ていきましょう。
ハードウェア・プラットフォームの違いが設計に与える影響

ゲーム開発者たちは、異なるハードウェアやプラットフォームごとの特性を理解した上でアクセシビリティ設計を行っています。これは単なる技術的対応ではなく、各プラットフォームの強みを活かし、弱みを補う創造的なプロセスでもあります。こうした「制約の中での最適化」という視点は、マルチデバイス対応が求められるWeb開発にも重要な示唆を与えてくれます。
ハードウェア特性による実装の違い
ゲーム開発者は、各ハードウェア環境の特性を理解し、それぞれの強みを活かしながら最適なアクセシビリティ実装を行っています。主要ゲーム機器には以下のような特徴があります。
- コンソール(PlayStation、Xbox、Nintendo Switchなど)は、統一された入力デバイス(コントローラー)と固定的なハードウェア仕様を持ち、各社の独自機能(例:DualSenseの触覚フィードバック)も活用できます
- PCは、多様な入力デバイスとハードウェアスペックの幅広さが特徴で、OSレベルのアクセシビリティ機能との連携やカスタマイズが可能です
- モバイルは、タッチ操作が基本で画面サイズの制約があり、バッテリー消費への配慮も必要ですが、iOS/Androidの標準アクセシビリティ機能を活用できます
Web制作においても機器特性を意識することが重要です。PCサイトではキーボードショートカットの充実やスクリーンリーダー対応に注力し、モバイルサイトではタッチターゲットの適切なサイズ確保や単純化されたインターフェースが効果的です。また、画面サイズに応じたレスポンシブデザインやデバイス性能に合わせたコンテンツ最適化も重要です。デバイスの特性を制約としてではなく、ユーザー体験を向上させる機会として捉えることがポイントとなります。
プラットフォーム環境に応じた工夫
ゲーム開発者は、各プラットフォームの制約の中で最大限のアクセシビリティを実現するために様々な工夫を凝らしています。
- モバイルゲームでは、限られた画面スペースでも情報を見やすく保つため、アクセシビリティ設定をまとめた折りたたみ式メニューの実装が効果的です
- クロスプラットフォームゲーム(複数のプラットフォームでプレイ可能なゲーム)では、コントローラーやマウス、タッチ操作など多様な入力方式に対応するため、フォーカス移動型UIの導入や字幕サイズの調整など、プラットフォームごとの特性に応じたUI最適化が求められます
- Xbox向けゲームでは、Xboxアクセシビリティコントローラーとの互換性を考慮した柔軟な入力設計が行われています
Web開発においても同様の考え方が適用できます。ブラウザごとのAPI対応の違いを考慮したプログレッシブエンハンスメント(基本機能をベースに、対応ブラウザには段階的に高度な機能を追加する手法)や、複数の入力手段への対応により、様々な環境のユーザーがコンテンツを利用できます。ネットワーク速度の違いにも配慮し、低速接続でも基本情報にアクセスできる軽量設計も重要です。主要ブラウザの実装差異を把握した上で、どの環境でも一定水準の体験を提供することが求められます。
ゲーム業界では、このような環境の中から、従来の枠を超えた革新的なアクセシビリティ機能が生まれています。次に、最新ゲームに見られる独創的なアクセシビリティ解決策と、Webデザインへの具体的な応用例を見ていきましょう。
ユニークな工夫とWebへの応用可能性

これから紹介する事例は、技術的制約や従来の設計常識を創造的に乗り越えた、特に注目に値するアクセシビリティの取り組みです。視覚・聴覚障がいに対する最新技術から、認知支援や心理的なアクセシビリティまで、各ゲームが採用した斬新なアプローチを見ていきながら、それぞれがWebデザインにどのように取り入れられるかを具体的に考察します。
視覚に頼らないレーシング体験
工夫内容:
『Forza Motorsport』(2023)では、全盲や弱視のプレイヤー向けに「ブラインドドライビングアシスト(BDA)」を導入(注釈[5])。オーディオキュー(音で正しいコース位置を伝える)、自動減速(障がい物に近づくと速度を調整)、自動ステアリング介入(コースアウトを防ぐ操舵補助)の3要素を組み合わせ、視覚に頼らずレースを楽しめるシステムです。プレイヤーは支援レベルを自分で調整でき、完全自動運転から最小限の支援まで好みに応じて選択することができます。
効果:
The Game Awards 2023で「Innovation in Accessibility Award」を受賞。目が見えないプレイヤーも「速さの感覚」を味わえるようになりました。2年間の障がいプレイヤーコミュニティとの協働開発により、全盲の人がレースゲームを楽しむという新たな可能性を開きました。
Webでの応用:
複雑なビジュアルインターフェース(地図サービス、データ可視化など)でも、複数の感覚を活用したフィードバック(音声、振動など)により視覚に依存しない操作が可能になります。音による案内と自動的なナビゲーション補助(フォーカス移動の支援など)を組み合わせることで、視覚障がい者も複雑なWebコンテンツを直感的に「移動」し、理解できるようになります。
音だけで世界を探索するアドベンチャー
工夫内容:
『The Vale: Shadow of the Crown』(2021)では、全編を通じて映像に頼らず音声だけでプレイするゲームデザインを採用(注釈[6])。3D音響を手がかりに敵の位置や環境を把握します。バイノーラル録音技術(立体的な音響効果を生み出す録音手法)を用いて360度の空間音響を実現し、足音や風の音、会話の方向など、あらゆる音の位置情報から環境を「見る」ことができます。戦闘では敵の攻撃音を聞き分け、タイミングよく剣を振るうなど、音に基づいた複雑なゲームプレイメカニクスを構築しています。
効果:
視覚障がい者でも楽しめる本格アクションゲームとして高評価を得ました。盲人コミュニティの協力を得て調整され「音だけとは思えないほど情景が浮かぶ」と評価されています。
Webへの応用:
スクリーンリーダー対応や音声対話型UIに通じるアプローチです。ARIA属性(支援技術向けに情報を補足するマークアップ属性)を正しく用いて画面構造を音声で伝えたり、音声アシスタント向けにWebサービスを最適化することが考えられます。
ゲーム内手話通訳
工夫内容:
『Forza Horizon 5』(2021)では、カットシーン再生時に画面隅に実写の手話通訳者映像が同期表示され、セリフを手話で翻訳(注釈[7])。ASL(アメリカ手話)またはBSL(イギリス手話)を選択可能で、300以上のシーンで物語の内容を視覚的な手話で理解できます。この機能は単なる字幕の代替ではなく、手話通訳者の表情や手の動きを通じて登場人物の感情やトーンまで伝えられるよう工夫されています。開発にあたっては、ろう者コミュニティと密接に協力し、適切な言語表現や画面配置を決定しました。
効果:
「字幕を追う必要がなくなり内容に没頭できる」「声優の感情も手話表現から汲み取れる」など、ろう者からの好評を得ました。
Webへの応用:
動画コンテンツやライブ配信に手話通訳を付け、ユーザーが必要に応じて表示・非表示を切り替えられるインターフェースを実装できます。WebRTC技術の発展により、ユーザーごとに必要な通訳映像を合成表示することも可能になるでしょう。
マルチモーダルなセリフ演出
工夫内容:
『The Last of Us Part I』(リメイク/2022)では、ゲーム内蔵の音声解説と触覚フィードバックによるセリフ再現という2つの機能を追加。プロのナレーターによる状況描写と、コントローラーの振動を利用したセリフの抑揚表現を実現しました(注釈[8])。音声解説はカットシーンだけでなくゲームプレイ中の重要な視覚情報も説明し、また、PS5のDualSenseコントローラーの高度な触覚機能を活用し、会話のリズムやトーンを細かな振動パターンで表現しています。
効果:
視覚障がい者がキャラクターの表情変化まで含めた物語の細部を理解できるようになりました。また、聴覚障がい者もキャラクターの感情ニュアンスを振動で感じ取れるという新しい体験を提供しました。
Webへの応用:
Webでも動画コンテンツに音声解説を加えたり、モバイル端末の振動機能を活用して情報を補足する設計が可能です。複数の感覚チャネルを活かしたマルチモーダルな伝達手法は、視覚・聴覚に頼らない新たなアクセシビリティの可能性を拓きます。
認知負荷を軽減する記憶サポート機能
工夫内容:
『Prince of Persia: The Lost Crown』(2024)では、複雑な探索型ゲームでの記憶負担を軽減する機能を導入(注釈[9])。プレイヤーは「記憶のかけら」を使用して、現在地のスクリーンショットをマップに記録し、後で参照することができます。この機能は、広大な迷路のような世界で記憶の負担を大幅に軽減しました。また、任意のポイントをマップ上に手動でマーキングする機能と組み合わせることで、認知障がいのあるプレイヤーの空間認識をサポートしています。
効果:
The Game Awards 2024で「Innovation in Accessibility Award」を受賞。認知処理に障がいのあるプレイヤーから「初めてメトロイドヴァニアジャンル(探索と成長を軸に進行する2Dアクションゲームの一種)を最後までプレイできた」という声が寄せられ、一般プレイヤーにとっても便利な機能として評価されました。「アクセシビリティが全ユーザーの体験を向上させる」好例となっています。
Webへの応用:
複雑な情報構造を持つWebサイトやアプリケーションでの「コンテキスト記憶」(状況や場所など周辺情報と結びついた記憶)支援に応用できます。例えば多段階のフォーム入力や複雑なナビゲーション構造を持つサイトで、ユーザーが「ブックマーク+メモ+スクリーンショット」を一括して記録・管理できる機能は、認知障がいのあるユーザーだけでなく、全てのユーザーの利便性を高めるでしょう。
恐怖症への配慮モード
工夫内容:
『Grounded』(2020)では、クモ恐怖症のユーザー向けに「Arachnophobia Safe Mode(クモ恐怖症対策モード)」を導入(注釈[10])。プレイヤーがスライダーで蜘蛛の見た目を段階的に簡略化し、恐怖感を軽減することができます。重要なのは、ゲームプレイ機能はそのままに見た目だけを変更する点で、ゲーム体験を損なわずに心理的な障壁を取り除く設計となっています。開発者は心理専門家と協力してこの機能を実装しました。
効果:
「虫嫌いでもゲームを楽しめる」「開発者がメンタルヘルスに配慮してくれた」という声があり、精神的アクセシビリティへの取り組みとして評価されました。
Webへの応用:
特定のユーザーに心理的ストレスを与えるコンテンツを軽減・回避する仕組みが考えられます。例えば、画像に含まれる特定対象をユーザー設定で非表示にしたり、CSSメディアクエリのprefers-reduced-motionを用いてアニメーションをオフにするなどの実装が有効です。
これらの事例から見えてくるのは、「障がい」を制限としてではなく、新しいインターフェース設計のきっかけとして捉える視点です。特定のニーズに応えるために開発された機能が、結果的に多くのユーザーにとって価値ある体験をもたらしています。
アクセシビリティは”対応するもの”から”選べるもの”へ
ゲーム業界の先進的な取り組みから見えてくるのは、アクセシビリティに対する考え方の大きな転換です。かつての「特定の障がいに対応する」という発想から、「多様なユーザーが自分に合った体験を選べる」というインクルーシブな設計思想への進化が起きています。
Web制作者も同様の視点で、「このユーザーは何ができないか」ではなく「このユーザーは何を選べるようにすべきか」という発想で取り組むことで、より包括的なUI設計を実現できるでしょう。多様なニーズを理解し、柔軟な選択肢を提供することこそが、次世代のWebアクセシビリティの鍵となるのです。
リンク集
注釈[1] Laura Kate Dale 氏による評論:pbs.org/video-games-for-accessibility
注釈[2]『The Last of Us Part II』アクセシビリティ機能:playstation.com/the-last-of-us-part-ii
注釈[3]『Forza Horizon 5』アクセシビリティ機能:xbox.com/forza-horizon-5-accessibility
注釈[4]『God of War: Ragnarök』アクセシビリティ機能:playstation.com/god-of-war-ragnarok
注釈[5] 視覚に頼らないレーシング体験:xbox.com/forza-motorsport-accessibility
注釈[6] 音だけで世界を探索するアドベンチャー:epicgames.com/the-vale-shadow-of-the-crown
注釈[7] ゲーム内手話通訳:microsoft.com/features/forza-horizon-5
注釈[8] マルチモーダルなセリフ演出:ign.com/the-last-of-us-part-1
注釈[9] 認知負荷を軽減する記憶サポート機能:global-esports.news/prince-of-persia/the-lost-crown
注釈[10] 恐怖症への配慮モード:automaton-media.com/20200617-127864