Webアクセシビリティについて調べていると、「JIS X 8341-3のAA準拠」という表現をよく見かけるのではないでしょうか。しかし、Webサイトのアクセシビリティ対応を担当する方々であっても、その意味を正確に理解している人は多くありません。
本記事では、「AA準拠って何を満たせばいいの?」 「準拠と一部準拠は何が違うの?」 「準拠と宣言するには何が必要?」といった疑問にお答えします。自社におけるアクセシビリティ対応の正しい表明方法や適切な目標設定について、理解を深めることができるでしょう。
JIS X 8341-3の適合レベルについて
JIS X 8341-3は日本のWebアクセシビリティ規格で、国際規格のWCAG(Web Content Accessibility Guidelines)をベースにしています。両者は基本的に同じ内容ですが、本記事では日本企業向けのJIS X 8341-3を中心に、適合レベルについてさらに詳しく解説します。
JIS X 8341-3の基本構造
JIS X 8341-3は次のような階層構造になっています。

以下は、JIS X 8341-3の階層構造を具体的に示したものです。

このように、JIS X 8341-3は段階的に詳細化される構造になっています。最上位の「原則」から始まり、それを具体化した「ガイドライン」、さらに具体的な確認項目である「達成基準」へと展開されます。そして、各達成基準には適合レベル(A、AA、AAA)のいずれかが割り当てられています。
適合レベルA・AA・AAAとは
達成基準には「A」「AA」「AAA」という3段階の適合レベルがあります。

特に覚えておくべきなのは、レベルAAやAAAは、それより下のレベルの基準をすべて満たしたうえで、さらに追加の要件を課しているということです。つまり、AAレベルに適合するには、Aレベルのすべての達成基準を満たした上で、さらにAAレベルの達成基準もすべて満たす必要があるのです。以上を踏まえ、具体例で各適合レベルを見ていきましょう。
具体例で理解する適合レベル
以下の表は、画像や動画などメディア関連のガイドライン「1.2 時間依存メディア」の達成基準とその適合レベルを示したものです。
達成基準 | 内容 | 適合レベル |
---|---|---|
1.2.1 音声のみ・映像のみ(収録済) | 音声のみ・映像のみのコンテンツに代替コンテンツを提供 | A |
1.2.2 キャプション(収録済) | 収録済の動画にキャプション(字幕)を提供 | A |
1.2.3 音声解説・メディア代替(収録済) | 収録済の動画に音声解説か代替コンテンツを提供 | A |
1.2.4 キャプション(ライブ) | ライブ配信にもキャプション(字幕)を提供 | AA |
1.2.5 音声解説(収録済) | 収録済の動画に音声解説を提供 | AA |
1.2.6 手話(収録済) | 収録済の動画に手話通訳を提供 | AAA |
1.2.7 拡張音声解説(収録済) | 動画を一時停止して詳細な音声解説を提供 | AAA |
1.2.8 メディア代替(収録済) | 収録済の時間依存メディアに代替コンテンツを提供 | AAA |
1.2.9 音声のみ(ライブ) | ライブの音声コンテンツに代替コンテンツを提供 | AAA |
「AAに適合」する場合、レベルAとAAのすべての要件を満たす必要があります。つまり、上記の表では1.2.1から1.2.5までのすべての達成基準に対応していなければなりません。
このように、JIS X 8341-3には3段階の適合レベルがあり、各レベルは段階的に要求水準が高くなっていきます。また、各適合レベルは下位レベルを包含しており、上位レベルに進むほど要件が追加されていくというのがポイントです。適合レベルを理解することで、自社のWebサイトが達成すべき目標を明確にすることができます。
では、これらの適合レベルを表現する際に使われる「準拠」「一部準拠」「配慮」といった用語にはどのような違いがあるのでしょうか。
「準拠」「一部準拠」「配慮」の違いとは?
アクセシビリティ対応を表現する言葉には様々なものがあります。JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドラインでは、「準拠」「一部準拠」という用語が推奨されています。ここでは、これらの用語の違いと適切な使い分けについて解説します。
準拠(Conformance)とは
「準拠」とは、特定の適合レベルのすべての達成基準を満たしている状態を指します。「JIS X 8341-3のAA準拠」と宣言するためには、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

「適合表明」とは、Webサイトのアクセシビリティへの取り組み方針や対応状況を記載した文書のことです。具体的には、達成した適合レベルや対象範囲、例外事項などを明記したものになります。
また、重要なのは「試験」です。単に「対応しました」と言うだけでは準拠とは言えません。「準拠」を表記する場合は、Webアクセシビリティ方針を策定してWebサイト上で公開するとともに、試験結果も公開する必要があります。つまり、達成基準をすべて満たしていることを試験で確認した上で、その結果を表示することが求められているのです。
一部準拠(Partial Conformance)とは
「一部準拠」とは、目標とする適合レベルに該当する達成基準の一部を満たすことができない状態を意味します。例えば、「レベルAAに一部準拠」は、レベルAのすべての達成基準を満たすが、レベルAAの達成基準を一部満たしていない状態を指します。一部準拠が認められるケースには以下があります。
- 第三者により提供されているコンテンツが含まれる場合
- 制御できない技術を使用している場合
- 言語の特性により達成基準を満たせない場合
一部準拠の場合もアクセシビリティ方針の公開は必須であり、試験の実施も必要です。ただし、試験結果の公開については任意となります。また、「一部準拠」を表記する際には、達成基準を満たしていない部分について今後の対応方針を示すことが求められます。
尚、「レベルAAに一部準拠」と表記する場合はレベルAに準拠していること、「レベルAAAに一部準拠」と表記する場合はレベルAAに準拠していることが前提となります。
配慮(Consideration)とは
「配慮」という表記は、JIS X 8341-3で正式に定義されていませんが、実務上よく使われる表現です。この表現は次のような状況で使用されることが一般的です。
- アクセシビリティ対応を始めたばかりで、まだすべての基準を満たせていない
- 一部の基準に対応したが、試験による確認が完了していない
- 対応は進めているが、準拠を宣言できるレベルには達していない
配慮の場合、試験の実施と試験結果の公開は任意ですが、Webアクセシビリティ方針の提示または公開は必須です。この方針には、目標とした適合レベルや参照した達成基準の一覧を含めることが望ましいとされています。
各表記の要件まとめ
表記 | 方針の公開 | 試験 | 試験結果の公開 | 追加表記※ |
---|---|---|---|---|
準拠 | 必須 | 必須 | 必須 | – |
一部準拠 | 必須 | 必須 | 任意 | 要 |
配慮 | 必須 | 任意 | 任意 | 要 |
※ 追加表記が必要な事項
一部準拠:どの部分が準拠していないか、その理由と今後の対応方針
配慮:目標とした適合レベルまたは参照した達成基準の一覧
表記 | レベルA 達成基準 | レベルAA 達成基準 | レベルAAA 達成基準 |
---|---|---|---|
レベルA準拠 | すべて満たす | – | – |
レベルAA準拠 | すべて満たす | すべて満たす | – |
レベルAAA準拠 | すべて満たす | すべて満たす | すべて満たす |
レベルA一部準拠 | 一部満たす | – | – |
レベルAA一部準拠 | すべて満たす | 一部満たす | – |
レベルAAA一部準拠 | すべて満たす | すべて満たす | 一部満たす |
配慮 | 公式定義なし | 公式定義なし | 公式定義なし |
これらの表記の違いを正しく理解することで、自社のアクセシビリティ対応の現状を適切に表明できるようになるでしょう。特に、「準拠」と宣言するためには方針や試験結果の公開が必要であることを認識し、現状に合った表記を選ぶことが重要です。尚、試験については下記記事で詳しく解説しています。
どの適合レベルを目指すべきか?

アクセシビリティ対応を進める際に、多くの企業担当者が「どのレベルを目指すべきか」という疑問を持ちます。そこで、現実的な目標設定について考察してみましょう。
現実的な目標としての「AA準拠」
多くの企業や組織では、「レベルAA準拠」を目標とすることを推奨します。主な理由は次の点です。
- 最適なアクセシビリティ水準:レベルAだけでは最低限の対応に留まり、多くのアクセシビリティニーズを満たせない。AAレベルであれば、より多くのユーザーが快適に利用できる。
- バランスの取れた水準:実現可能性と十分なアクセシビリティのバランスが取れている。AAレベルは技術的にも予算的にも現実的な範囲で、効果的な対応ができる。
- 国内の法的要件との整合性:日本の公共機関のWebサイトなどではAAレベルが求められることが多く、民間企業においてもこれに準じた対応が望ましいとされている。
- 国内企業の標準的な対応:JIS X 8341-3対応を積極的に進めている日本企業の多くはAAレベルを目標としており、業界標準として定着している。
適合レベル選択の現実的なアプローチ
AA準拠を一度に達成するのが難しい場合は、まずレベルAの達成を目指し、段階的にAAレベルへ進むアプローチも有効です。
一方、AAAレベルについては、すべてのWebコンテンツに適用することは想定されておりません。これは一部の達成基準が特定のコンテンツにのみ適用可能なものであったり、技術的・経済的に実現が困難だったりするためです。ただし、実現可能なAAAレベルの基準は、特に重要なページや特定のユーザー層向けのコンテンツに取り入れることを検討するとよいでしょう。
多くの企業にとっては「AA準拠」が現実的でバランスの取れた目標ですが、最終的には、自社のWebサイトの目的、対象ユーザー、リソースを考慮し、バランスの取れた目標を設定することが重要です。
自社のアクセシビリティ対応を適切に表明するために
本記事では、JIS X 8341-3の適合レベルと対応度表記について解説してきました。意味を正しく理解することで、自社のアクセシビリティ対応の現状を適切に表明し、今後の目標を明確に設定できるようになります。本記事の内容を参考に、適切な適合レベルの目標設定と正確な対応度表記を行ってください。